エレファントカシマシDB 2008/06/28(土) 日比谷野外大音楽堂 普請虫さんのライブレポート

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普請虫さん

 今年の野音の盛況ぶりはCDデビュー20周年を祝うにふさわしいものだった。にもかかわらず、それを告げるものも何もなく、ゲストと呼べる人もない(蔦谷好位置はなかば準メンバーで、今回はゲスト参加という紹介ではなかった)という、とても質素でいつもどおりの姿だった。ただ、まったく意識していない訳ではないのは、そのセットリストの豪華さと、約3時間にもおよぶ長尺の公演時間が示しているだろう。
 セットに不満はなかったが、ミヤジのギタープレイと歌詞忘れが、少し残念な完成度だった。その代わりといってはなんだが、トミや成ちゃんのリズム隊、石君と蔦谷好位置のメロディ隊の錬度には驚いた。こんなに出来るバンドだったと、改めて知った(その落差の分、ミヤジの不調にがっかり)。ただ、ミヤジは心意気に関してはいつもどおり、大きなものを見せた。波があって下降したセットもあるが、バンドの好調とシンクロして盛り上がった部分では、底知れぬ歌唱力、化け物のように大きな世界観を演じた。初生体験の曲が数曲あったことも大きなよろこびであった。

 1曲目は久しぶりの“パワー・イン・ザ・ワールド”。それも打ち込みバージョンである。2008年の野音の戦闘宣言ともいうべき、初っ端から手抜きなしの絶唱である。赤く染め上げられた頭も凛々しい石君も、弾きまくりである。ただ、リハからほぼ手抜きなしで歌っていたためか、すでに声がかすれていた。
 “うつらうつら”では、蔦屋好位置の好サポートが光った。去年の野音では、時折バンドのサウンドとのずれを感じたキーボードであるが、回数を重ねて今や準メンバー的なポジションであるそのサポートは、かっちりとハマっていた気がする。今年の野音のなかで輝いていた曲のひとつである。
 “孤独な旅人”、“デーデ”は演奏と歌に出来に上下の差がはげしかった今年の野音のなかでは、“今宵…”と並んで、<鉄板>的にぶれがなかった。
 エピック時代の1st、2ndからの曲、キャニオン時代の『ココロに花を』『明日に向かってはしれ』の曲、これらはアレンジが固まっていて演奏回数もほかにくらべて格段に多いために、歌唱も演奏も毎回揺らぐことなく、安心して聴ける。今年もその安定感が、歌詞忘れのせいで何度かボロボロになった空気感を救った。
 混沌のなかから立ち上がってゆく“平成理想主義”は、今のエレカシの立ち位置と差異がないので、蔦谷好位置をふくめた5人編成のバンドでも、難なくハマった。歌詞もばっちりだったし、夏の浜辺を歌った歌詞が、初夏の日比谷の光景に再現されてしんみりとした。序盤で出してしまったのがもったいないくらい、よかった。このあとに早すぎるメンバー紹介。トミのTシャツの柄「アーミー」につっこんで、笑いを誘った。
 つづく“東京ジェラシー”がまた今年の目玉曲でもあったろう。歌詞に多少のアドリブも混じっって揺れたが、この曲も今のエレカシの立ち位置、明日を強く見つめるポジティブ路線に無理なくおさまって、よい演奏だった。このあとには『東京名所図絵』をバブル時期に事務所の前借りで購入したエピソードが披露された。
 トミのパワフル・ドラムからはじまる“1万回目の旅のはじまり”は、前向きな歌を連発する今のエレカシとはやや距離があり、歌の持っている悲壮感があまり表現されていなかった。『扉』のツアー時のザラつきがないと、この歌のよさはなかなか出てこない。現在のエレカシも魅力的なだけに、かつての魅力との落差には複雑な思いがする。ただ、今回はトミの好調がひしひし伝わってきた。
 名曲“今宵…”のカップリング・サイドに隠れた名曲“赤い薔薇”。この曲は歌詞も演奏も雰囲気も、ベストマッチしてよい出来だった。「たとえばどこかの森の中」という表現が、都会の森、日比谷公園と重なったことも大きいと思う。
 ふたたび、今のエレカシと立ち位置が重なるアルバム『風』の小曲“勝利を目指すもの”。アルバム収録のアレンジよりもかなりブルースに寄った演奏だったが、歌詞忘れもなく、曲のもつ力強さを目一杯アピールした。
 「90%俺が作詞した」と暴露した“せいので飛び出せ!”だが、歌詞はボロボロだった。逆に、共作者の高緑のベースはとても安定していて、演奏はとてもよかった。歌詞忘れはミヤジの得意技だから、そのことを間引いたら、今のエレカシ即興歌詞バージョンだったとも思える。
 「超速」宣言を出した“今をかきならせ”。本当に高速でプレイされたその曲は、歌詞の意味よりも演奏に偏ったパンキッシュなエレカシの一面を明らかにした。一体感のある演奏は、長いキャリアの賜物とも言えるだろう。ちょうど“奴隷天国”と同じ立ち位置の楽曲なのだということに、気付かされた。
 “真夏の星空は少しブルー”は今年の夏歌として用意された曲だろうが、夏至に近く明るすぎる雰囲気がやや興をそいだ感じがした。もう少し後半、アンコールでもよかったかもしれない。
 さて、今回の野音を象徴したのは、ミヤジの演奏がボロボロだったことだが、その悪い面がいちばん出たのが、残念ながら名曲“遁生”や“月の夜”だった。これはもう本当に残念なくらいコードを押さえ間違えて、せっかくの世界観を台無しにしてしまった。弁護をすれば、今のエレカシの立ち位置とややずれのある作品なので、どうしても気分的な齟齬が演奏と歌に反映されたのかもしれない。“月と歩いた”は悪くなかった。純・歩行者だった頃あじわった自動車の不作法、それに対するミヤジのいきどおりがしっかと伝わってきた。
 しかし、しかし、<鉄板> ナンバーの“珍奇男”で、ふたたび快進撃にもどってきたのでホッと胸をなで下ろした。ただ、演奏は出色だったが、歌詞のもつザラついた世界観はどこかへ行っていた。むしろ、元気でポジティブな歌に聞こえるくらい、卑屈さがない“珍奇男”だった。演奏をとるか、歌詞世界のザラついた歌唱をとるか、この二者択一はいつも迷ってしまう。中盤のハイライトが“珍奇男”とつづく“友達がいるのさ”だった。
 “友達がいるのさ”は何度か指摘しているのだが、おそらく夏の野音を念頭にかかれた楽曲であると確信している。「東京中の電気を消して」というのは、ちょうど夏至のキャンドルナイトのイベントとも重なるところがあるし、初披露されたのも2004年の日比谷の野音であった。“武蔵野”“あなたのやさしさを…”に並んで、夏の野音がぴったりの名曲だと、今年も感じた。めずらしく後半客席がライトアップされると、みんなが手をいっせいに挙げて歓声を上げたシーンは壮観だった。
 盛り上がりを押さえる感じでしっとりと演奏された“さらば青春”は、私が長いあいだ生で体験したいと思っていた佳曲のひとつである。これも名曲“風に吹かれて”の裏に隠れたカップリングサイドの曲である。使い慣れた言葉のくりかえしながら、メロディと歌唱のなかに深い郷愁が込められた、20代にして老成の傑作である(ひとつだけ難点があるとしたら、「僕ら」「俺は」という人称の混同があること)。
 “ゴクロウサン”は日比谷、丸の内、霞ヶ関など一帯に響くと、ちょっとスカッとする。いわゆる「賢く、小ズルイ」奴らに向けられた、皮肉の鋭い曲だからだ。
 “真夏の革命”も長いあいだ聞きたかった曲だ。後半のハイライトはこのサプライズ曲ではなかったろうか(リハで、すでにもろわかりだったが…)。 思えば、自分の年齢を歌詞に盛り込んだ最初の歌が“真夏の革命”だった。“俺たちの明日”のエイジ・カウントもこの歌がルーツだ。蔦屋好位置のキーボードプレイが、原曲のニューオリンズ・ファンクを思わせる雰囲気を再現していて、とても高揚感があった。ひとりでオルガンとピアノと両方を弾きわけていたのだから、大活躍である。(反面、リズムは打ち込みだから、トミが当て振りで少々かわいそうだった)。
“シグナル”はミヤジの歌にしてはキーが低いので、歌い出しがいつもうまくゆかない。“武蔵野”と同じで、涙ぐんでいたような気がする。声が震えたのは、単に音をはずしたのではなく、感極まっていたのだろう。多少揺らいだ歌唱を後半部で盛り返した。
 新アルバム・パート、3曲。“笑顔の未来へ”“Flyer”“俺たちの明日”。“笑顔の…”は出だしでつまずきややよれてしまった感じがある。今回はパワー爆発とはゆかなかった。つづく“Flyer”は挽回して力強い演奏となった。身振り手振りもも爆発、会場大盛り上がり、新しい代表曲となるべき貫禄を見せた。“俺たちの明日”も知名度も手伝って大盛りあがり。この曲はサラリーマンの応援歌であるから、やはり日比谷の森に響くことには大きな意味がある。休日出勤して、会場外でたまたまサラリーマンが耳にしたら、大いに励まされたことだろう。
 “俺たち…”で本編をしめて、ふたたびステージに戻ってきてのアンコール1曲目は、1stからの“てって”。CDデビュー20周年だから、1stからもっとやると思ったのだが、チョイスされたのは“デーデ”“ゴクロウサン”“てって”と少ない上に、やや意外な選曲だった。
 つづいて演奏されたのが、<鉄板>な名曲“今宵の月のように”。この曲はやや食傷気味なのだが、歌われてみると、なぜか聞き惚れている。「いつの日にか輝くだろう」は、最近の歌詞に何度も組込まれて、強いメッセージを放っている。また、「新しい季節の始まりは夏の風町に吹くのさ」と、まさしく初夏にぴったりの内容であった。
 “武蔵野”では、毎度のことのように、涙にむせんでうまく喉をコントロールできなかった。ミヤジにとって思い入れの深い歌、“シグナル”や“なぜだか俺は祷ってゐた”などは、涙腺を刺激する鬼門の歌といっていい。
 さて、野音のために用意された新曲披露。おそらく曲の最後につぶやいた“新しい季節へ”がタイトルなのだと思う。曲調は“笑顔の未来へ”の延長線上にあって、力強い明日へ進んでゆこうというメッセージソングだ。「ここからはじまるグラデーション」というサビが耳に残る。「春夏秋冬」という部分は泉谷しげるの例の歌に影響されたのだろうか?
 ポジティブソングもよいが、そろそろ底暗い沸々と荒ぶる歌へ回帰して欲しくもあり、ファンとしては屈折した心境である。性格のよいエレカシもいいが、性格の悪いエレカシも好きなのだ。
 

No.曲名回数
1パワー・イン・ザ・ワールド11回目
2うつらうつら3回目
3孤独な旅人5回目
4デーデ13回目
5平成理想主義5回目
6 東京ジェラシィ初!!
7一万回目の旅のはじまり7回目
8赤い薔薇4回目
9 勝利を目指すもの初!!
10 せいので飛び出せ!初!!
11今をかきならせ4回目
12真夏の星空は少しブルー2回目
13遁生2回目
14 月と歩いた初!!
15月の夜4回目
16珍奇男8回目
17友達がいるのさ7回目
18 さらば青春初!!
19ゴクロウサン4回目
20 真夏の革命初!!
21シグナル9回目
22笑顔の未来へ7回目
23FLYER2回目
24俺たちの明日9回目
25てって4回目
26今宵の月のように15回目
27武蔵野10回目
28 新しい季節へキミと初!!


持帰り用体験回数(コピーしてご利用下さい)


持帰り用セットリスト(コピーしてご利用下さい)

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