エレファントカシマシDB 2009/04/11(土) 日本武道館 普請虫さんのライブレポート

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普請虫さん

管理人さんの情報で知った、『昇れる太陽』の背景である半蔵門付近の景色をみるために、半蔵門で降りて千鳥ヶ淵から北の丸公園をまわって、武道館付近へとたどりつく。
 13時過ぎには武道館付近にいた。すると、すでに機材チェック、楽器の音出しがはじまる。まず、ドラム、つづいて鍵盤、ベース、ギター。宮本浩次御大が登場したのが、14時。「ええっ、早いな」というのが印象。ここから延々2時間近い歌唱をふくめたリハーサルが続いた。しかも、いつもながらリハーサルから全力である。そんなに歌ったら本番で声が嗄れるぞという心配は、半ば的中(高音が出なくなった)、半ば杞憂(高音部以外は問題なく歌いきった)に終わった。
 
 18時10分入場のためのSEがかかり、エレカシ登場。1曲目「新しい季節へキミと」。出し惜しみするかと予測していたストリングス隊を冒頭から惜しげもなく披露したことにびっくりした。CDではストリングスが入るとバンドの音が引っ込んでしまったが、今回の武道館ではよいアンサンブルになっていて、ストリングスがあることによる相乗効果が発揮された。会場が一気に盛り上がる。
 と、2曲目で「この世は最高!」。いつもは成ちゃんのコーラスが印象的な楽曲だが、今回は石君と昼海幹音だけだった。2曲目でエピック時代の曲を挟んだことで、セットに深みが出た。「手当たり次第に夢をつないでやってりゃいいんだ」というのは、エッジの利いた尖(とが)った曲である。3曲目でふたたび universalに戻って「今はここが真ん中さ!」。この曲はオープニングにふさわしい華やかさのある曲。「今は武道館がど真ん中!」といつもどおりのアドリブを交えつつ、「はじまるよぉ」と盛り上げる。
 ここから定番曲がつづいた。「デーデ」は「貧乏に捧(ささ)げるバラードだ」との定番的な紹介をやめて「ブルースだ。ど・ブルースだ」との口上。ここから宮本御大が右へ左へと駆け回る。つづいて「未来の生命体」。この曲は近年セットによく登場する良作。昨年のアルバムツアーでも披露されていたが、今回も安定したよい演奏だった。つづいて「風に吹かれて」オリジナル・バージョン。リハーサルでは蔦谷好位置を押し出したピアノ・アレンジを練習していたので、本編になってからバージョン・チェンジした1曲だろう。「さらば青春」も最近演奏回数があがってる曲だが、文句なくよい。高音パートがないことも手伝って、かすれ声なしに聞くことができた。筆者の涙腺に響いた。「甘き絶望」はMCにもあったとおり、ミヤジが個人的に大好きな曲である。以前、Shibuya-AXの2 daysのMCだったと思うが、シングルで出したいといって周囲に反対されたと残念がったエピソードを紹介していた。これもとてもよい完成度だった。「悲しみの果て」は言うまでもなく完璧(かんぺき)。エレカシのアンセムである。
 
 何か、すごく真っ当なライブで、ガサガサ、ザワザワした緊張感がないなあと思っていたら、「男は行く」である。ぶっ飛んだ。石君を久しぶりにイジメたおしてた。セットされた七三分けの髪の毛をむんずとつかむは、「もっとこっちへこい」「もっとだ」と、恐るべき指令を発して、荒くれ者の片鱗(へんりん)を見せていた。その意味で、まだ老成しきっていない、燃え上がる気持ち、荒ぶるココロを忘れていないんだな、そう感じた。演奏が終わってから、「緊張しているけど、今日も最高のギターです。中学時代に秩父(ちちぶ)にいっしょに行った仲です」とフォローを入れてたので、観客も一安心。しかし、新参のファン以外は、むしろああいうビリビリした感じのアピアランスが久しぶりだったので、狂喜したのではないか。
 「リッスントゥザミュージック」はヴァイオリン&チェロとの共演。アルバムと同じ編成でのライブ・パフォーマンス。美しい前半の恋模様と後半のバンド・サウンドの盛り上がりを完璧(かんぺき)に再現。金原(きんばら)千恵子さんの熱演に拍手。「昔の侍」はストリングスとの相性がとてもよい曲。MCでも言っていたように、『葉隠(はがくれ)』など武士道に着想をえてできた一曲であるが、死と再生、死ぬことによって生きる道を得るという、文学的なテーマを持った一曲である。この曲は太陽の描写が新作アルバム『昇れる太陽』に重なるので取り上げられたのだろう。
 今回一番のサプライズかつ完成度を誇ったのが、「シャララ」である。それを演奏することはリハーサルでわかっていたが、まさかストリングスを含めたアレンジで披露されるとは想像だにしなかった。正直、楽曲の持っていた潜在的な力に度肝を抜かれた。錬度があがっている、今現在のエレファントカシマシで再演される、エピック時代の楽曲のクオリティの高さ。「恋をせにゃならぬ 飯くわにゃならぬ」。発表当時の老成に年齢が追いついて来たことがよくわかる。
 休む間もなく「珍奇男」。立て続けに大作である。しかも、前半からトミが煽られていた。「珍奇男」は石君とミヤジのギターのかけあいが注目されがちだが、ドラムのトミの見せ場度合いが高い曲である。だから、ミヤジに煽られるわけだが、今回の武道館の立て続けの演奏を見ていると、ややトミに残酷なセットのような気がした。しかし、「珍奇男」ではトミと成ちゃんのリズム隊がすばらしかった。

 さて、エピックとキャニオン時代のパートを終えて、再びuniversal時代の楽曲群。「It’s my life」は、ひとつ前の「珍奇男」の息切れを抱えていて、不出来な内容だった。昨年JCBホールで見たときはもっとガツっと骨太の演奏だったけれど、今回はちょっとよれていた。ボーカルのミヤジも少なからず息切れしていて、もったいない感じだった。フロアの反応もやや薄かった。その反動もあってか、次の「ハナウタ」がとても盛り上がった。CMタイアップで制作すると駄作に落ちる作品になるケースが多々あるなかで、これほどの名曲をつくる今のエレカシはすごい。とても丁寧に歌っており、春の華やかさもあり、シングルにリカットされてもおかしくない名曲である。「to you」では、またしてもやや不出来。高音がうまく出ないことが足を引っぱった曲が今回は散見された。無理をして高音を使わないで、うまく歌いきれるようにしたほうが、もっと力強くなると個人的には思うのだが、高音で歌う部分をつくるのが好きなミヤジのこと、やるなというほうが無理なのかもしれない。
 「絆」で再び金原千恵子ストリングス。これもタイアップありきで作られた楽曲。しかし、この「絆」や「ハナウタ」のような、華やかではあるけれど決して媚びていない新曲の力強さに、胸を打たれる。ストリングス隊を全面的にしたがえた、一夜かぎりのすばらしいショーだった。もしかすると、前回の武道館やライフツアーのときよりも、アンサンブルとして完成していたのではないかと思った。つづけて「笑顔の未来へ」。これもまたストリングスがイメージを広げる曲である。しかも蔦谷好位置のアレンジのなかでも屈指の作品であり、ミヤジも不思議なくらいリラックスして歌える曲である。すでにライブ定番の感も強い、しかも不思議と聞き飽きない。
 ストリングス隊のハイライト、武道館公演のタイトルの由来でもある、「桜の花、舞い上がる道を」。今回の武道館公演がこの曲ありきだったことは間違いない。そして、「絆」。「ハナウタ」や「to you」なども含めて、春めく風や春の光をテーマにして彩った素晴らしいステージ。ピンク色のライトアップのなかで歌われる「桜の花、舞い上がる道を」は、本編の〆である「俺たちの明日」よりも、よほどハイライトだった。しかし、あまり桜に思い入れがないのだろう、多くを語らないミヤジが頬笑ましかった。宮本にとって桜は「One Of Them」といおうか、春という大きな出来事のなかでは、ひとつピースにしかすぎない。しかも、他の花より特別ということはない、その思いを強くした。それでも、ハイライト足りうる力強いメッセージがあって、不思議と違和感を覚えなかった。
 近年における鉄板の名曲「FLYER」と「俺たちの明日」で本編をしめくくりをかざる。「FLYER」は演奏の熱さと「もう一度会おう」というメッセージの力強さに胸打たれる。「俺たちの明日」は、メジャーシーンへの高らかに宣言した、近年の代表作。ただ、「俺たちの明日」はストレートすぎるきらいがつよく、私自身はあまり思い入れを持てない。同じテーマであるなら「FLYER」に肩入れしてしまう。

 メンバーが舞台袖(そで)に下がって、本編が終了。22曲立て続け、ギターチェンジ以外に休息なしに走り続けた、メンバーの体力に感服した。どれだけのスタミナを養ったのだろう。リハーサルを3時間やって、そのあとの本編2時間超。

 黒シャツに着替えたミヤジが一番のりして、アンコール・パートのスタート。「今宵の月のように」。これも鉄板かつ安定度の高い名曲、名演。次に「風」。これは急遽ミヤジの機転で挿入された1曲のような気がした。というのも、次のためのギターチェンジをスタッフが行おうとしたのを断って、おもむろに弾きはじめた曲だからである。今まで何度か聞いた「風」のなかでピカイチの演奏と歌唱。しかし高音が出ない。ただ、それゆえの切実さも伝わる。上手く歌うことだけが名演ではないことの証明。つづいて「流れ星のやうな人生」。これは沈み昇る太陽の下りを強調すべく組まれた、アンコールセット用の曲だろう。演奏としてはあまり上手くなかったが、客席へのアピールは最高潮だっただろう。
 そして、ラスト「ファイティングマン」。バンドの代表曲にして、ファーストアルバム劈頭(へきとう)のキラーチューン。予想通り、最後をかざる曲に採用。客席とステージの一体感も最高潮。にんまりと笑顔が浮かぶなか、あまり尾を引くことなく、ミヤジが深々と一礼して舞台袖に去っていく。
 暗転して、しばらくアンコール登場用の照明に切り替えたので、アンコール2があるかと思いきや、客電がいっせいに点り客出しの場内放送。おそらく、アンコールセットはもう少し用意されていたのだと思うが、メンバーがやりきって体力が続かなかったような気がする。あれ以上求めるのは酷である。果たして演奏されなかったアンコールセットは「ガストロンジャー」だったのか、「so many people」だったのか、はたまた「武蔵野」だったのか。

 武道館公演の印象。
 新しめの曲で勝負をかけたセットであった。蔦谷好位置と昼海幹音を加えた6人編成のエレファントカシマシを十二分に意識して、これまで6人でやってきたレパートリーのなかから、自信作をピックアップしていた。新しいファンを意識したとても間口の広いセットリストだったけれど、長年のファンを退屈させない、華やかなショーアップと少ないながら力強い初期の楽曲をちりばめた。管理人さんが「よそいき」と言われているように、晴れ舞台で大見得を切っている、数年、数十年に一度の姿を見せたような気がした。しかし、ライブハウスでエッジの立った演奏をするエレカシもそろそろ見てみたい。アンサンブルをぶち壊すような攻撃性、野生がどうやら戻りつつあるようだし。

(誤字脱字と表現に若干の修正を加えました。いきおいで書くとかなり間違えてしまうのが恥ずかしいかぎりです。)

No.曲名回数
1新しい季節へキミと4回目
2この世は最高!8回目
3今はここが真ん中さ!5回目
4デーデ14回目
5未来の生命体4回目
6風に吹かれて11回目
7さらば青春2回目
8甘き絶望7回目
9悲しみの果て22回目
10男は行く5回目
11リッスントゥザミュージック3回目
12昔の侍4回目
13 シャララ初!!
14珍奇男11回目
15It’s my life2回目
16 ハナウタ~遠い昔からの物語~初!!
17 to you初!!
18初!!
19笑顔の未来へ10回目
20桜の花、舞い上がる道を6回目
21FLYER5回目
22俺たちの明日12回目
23今宵の月のように17回目
242回目
25流れ星のやうな人生8回目
26ファイティングマン10回目


持帰り用体験回数(コピーしてご利用下さい)


持帰り用セットリスト(コピーしてご利用下さい)

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