エレファントカシマシDB 2009/05/22(金) ZEPP TOKYO 普請虫さんのライブレポート

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普請虫さん

10分押しの開演。まず登場したのはサラリーマン風の石君。いつものサングラスではなく、黒縁メガネだったので、スタッフかローディーかと思った。石君がまず打ち込みのトラックを鳴らす(【ジョニーの彷徨】のバックトラック)。SEのつもりだったのかもしれない。ほかのメンバーが入場してきて、それぞれのパートの楽器を抱えて、音出しをする。『風』のなかの冒頭【平成理想主義】のような、あのカオスである。ここから【Sky is blue】に行くのかと思いきや、【こうして部屋で・・・】だった。セットリストがこれまでと全然ちがう。これはすごい意気込みだと感心する。高音部の調子がいいのか、初っぱなから高音シャウトをする。
 
 2曲目に【悲しみの果て】。これにはおどろいた。東京公演2日目は、理由はわからないが、まったく曲順のちがうセットでくり広げられることになった。【新しい季節へキミと】、【今はここが真ん中さ!】、とオープニングに似合う楽曲を立て続け。この2曲は幕開けにぴったりの華やかさが備わってる。蔦谷好位置と昼海幹音をくわえた6人編成でもやりなれた曲だけに、息もぴったり、分厚いサウンドでフロアを熱気に包んだ。3曲目はライブ演奏に期待をかけていた【おかみさん】。録音盤よりもだいぶダークな味付け。録音盤の獣骨を叩く楽器の不思議な音がないぶん、ユーモラスな印象が薄れていた。演奏の前に「ブルー・ダイズ」と一言。【BLUE DAYS】。石君がサビ「BLUE DAYS」の部分を楽しくコーラスしていた。この歌はRCサクセションの影響を感じる楽曲だけに、なんとなくホロリとした。

 蔦谷好位置のキーボードと宮本のギターの掛け合いから、【まぬけなJohnny】へ。そう、石君のスタイルはジョニー(ツアーTシャツの)を意識していた。今ツアーでは、ゴツゴツした男っぽい曲に聞こえた。【さよならパーティー】も錬度があがって、定番曲となっている。バンド・イメージの芯がしっかり通っている。
 つづいて演奏された【絆(きづな)】が、この日いちばんの出来。ピアノ・サウンドを前面に出したアレンジで、盛り上がり部分でリズム隊が入ってくると、がぜん力強く男らしい歌に聞こえた。ラップ部分のピアノはニューオリンズ・ファンクっぽい、ガンボ風味だった。宮本もこの日でいちばん丁寧に歌詞に思いをこめて歌っていたようで、会場がまさしく静寂と静聴に包まれた。余韻も残しながら、【ネバーエンディングストーリー】。痛切なるラブソング。こういう時はかすれ声もよりいっそうに楽曲の雰囲気を増す。もっとキレイな声で歌って欲しいという人もいるだろうが、私はかすれ声で苦しげに歌う姿の方が、痛切なる響きを持っていて、この作品の印象を強く感じる。最後につぶやいたのは「おやすみ」だったか。この後にメンバー紹介。
 【桜の花、舞い上がる道を】もまた力強いバンドサウンドで鳴らしていた。先月の日本武道館で演奏された【桜】とはまったく真逆の衝動である。レコード会社のリクエストでつくった「桜」の歌であるが、ファンが喜ぶのを見て、徐々に好きになってきているのかもしれない。しかし、何回聞いても「桜」に愛情がないのがわかる。宮本のなかでは「桜」は凡百の花のひとつに過ぎない。
 
 演奏前に、「氷が溶けて流れてゆくその瞬間」の箇所をつぶやく。【あの風のように】である。宮本が歌う前に抜き出すフレーズは、歌の中でとりわけ届いて欲しいメッセージであるように思う。【あの風のように】の場合は、ある日瞬間的にわかったことの驚きと喜びだろう。セリフ詞を一呼吸おかずに歌っていたので、セリフではなく歌のようだった。「Music on!」は一呼吸置いてる録音盤のほうが意味が深い。
 【ハナウタ】は、とりわけ丁寧な解説をしたあとに、歌いはじめた。テンポが速かった気がする。「トキメキ」と「時行き交う」が韻踏みなのだということに、ひとり気づき、ほくそ笑む。「二人の時間を」に宮本がVサインをひらひらさせた。武道館ではコーラスを誰がつけているのか不明だったが、今回はバッキングコーラスの正体が、蔦谷好位置であったことを確認した。「あ~ああ~」の部分である。
 【ジョニーの彷徨】石君が自前パソコンの打ち込みトラックをスタートさせて、曲がはじまる。「スカイブルー」を何度も何度も愛おしそうに叫ぶミヤジ。太陽の背景には青空、つまり月に星のような取り合わせだろう。

 しばらくギターチェンジの間があって【ガストロンジャー】。うれしそうに激しくドラムを叩くトミと成ちゃんが印象的。フロア大盛り上がり。観客のほとんどが拳(こぶし)を突き上げいっせいに雄叫(おた)びをあげる。雄叫(おた)びを背景に吠えまくる。「くだらねぇのはおめぇだけだ」「そんなこたぁ江戸時代から変わらねぇんだ」。「己自身とアイツ等の化けの皮をはがしに行くことを」。「赤はだかの心でいこうぜ」。
 「とお・ゆう」と言って【to you】がはじまる。これも録音盤よりもよほど男っぽい。ドラムがトミの生ドラムであることも印象を変えている。もちろんポジティブ・モード全開の春歌なのだと思う。歌詞を見る限りは、【桜の花】よりもよほど宮本らしい世界観である。歌詞を忘れて途中「ななな」になった箇所があった。石君のスライドブリージャーは控えめだった。
 【笑顔の未来へ】。これはもう定番曲なので特に触れるべきようなゆれ幅はなかった。まあ一点マイナスをいえば、宮本のギターがところどころ引っかかったところぐらい。いつもどおり、どんどんペースが速くなっていくのも愛嬌である。6人で録音した楽曲は、6人でやると、これほどカッチリとはまるものはない。
 本編最後。おまちかねの【Sky is blue】。宮本のスライドギターは予想通りグダグタであるが、歌いながらのスライドギターという曲芸であるから、慣れないとああなってしまうのだろう。しかし、うまくなりそうな予感はある。というのは間奏のスライドギターはなかなかだったからである。東京公演2日目の太陽は、だいぶ後半になってから昇ってきた。ギターに隠れがちだが、トミのドラムが素晴らしかった。本編最後のしめにふさわしい。
 
 アンコールを求める拍手がいつもにも増して揃っていた。普段は何度も小さくくり返す波だが、今回の拍手はずっと鳴り続けた。
 
 アンコール1曲目、昨年正月ライブ以来の【太陽の季節】。はじまりはアップテンポで入りすぎたので、歌に入ってやや抑えめに直す。前回と同じアレンジを用いたファンクネスなライブバージョンだった。【珍奇男】のように定番曲になってもおかしくない完成度をもった演奏である。
 【今宵の月のように】の曲前MCでは、【絶交の歌】をそろりとひいて、【今宵】の裏テーマはこの曲であると話した。「今宵月とありて」という部分である。【今宵】は御新規さんや久しぶりに見に来たファンへ向けたサービス曲である。一時期は嫌になって歌わなかったことがあると、どこかで言っていたし、要望の高い曲も挿んでセットリストをつくるということを覚えた宮本である。
 そんな【今宵の月のように】であるが、途中まで歌って歌いやめたので、どよめきが起こる。するとビリビリと二枚の紙をはがして後ろへ放り投げる。これはさまざまな感想を読んで後で知ったが、モニターのところに貼ってあった進行表のようなものらしい(この日はだいぶ無視していたから、いらねえやってことだろう)。ギターが3人と鍵盤がいることで、いつもの静かなバラードとは違う、華やかで力強い【今宵の月のように】だった。これはこれで新鮮な感じがした。
 石君に借りっぱなしのギターの話をしつつ、【FLYER】に突入。石君のヘッドバンキングも板に付いてきて、堂々たるアンコール曲の地位をしめつつある【FLYER】である。この日の【FLYER】はベースとドラムの音が太くて、ギターを凌駕していた。石君のギターソロの後ろで鳴ってるトミの力づよいドラムの方に耳を取られていた。パワフル・ドラムが遺憾なく輝く瞬間、光さす丘はトミの後方に見えた。
 ユニバーサル第一弾シングルの【俺たちの明日】。武道館でもやったように、客席の照明をフル点灯して、「俺たち」の意味を演出する。客席で歌う男女もチラホラ。
 オオラスは【ファイティングマン】。会場大盛り上がり。歌うものもいれば、拳をあげるものもいる。身振り手振り、祭り、宴、フェスティバル。ギターを持たない宮本の歌唱はもう全身全霊である。右へ左へ歩き回って、煽りまくる。エレファントカシマシのなかでも最も初期にできたという【ファイティングマン】。ファーストなかでも歌詞に自信をもっているという【ファイティングマン】をしめくくりにもってきた。武道館公演もそうだが、【ファイティングマン】と【花男】はミヤジご機嫌の証しの閉め曲だという実感がある。

 全体の感想。蔦谷・昼海を加えた六人編成は演奏がとても安定していた。最初はギターを弾かなかった宮本だが、途中から後ろの5人の激しい演奏に触発されたのか、歌と同じくらいギターもかき鳴らしていた。
 人によってどの会場がよかったとか、あの時は声が出ていなかったとかまちまちの感想である。私は1日しか見ていないから、どこかと比較する対象を持たない。ただ、武道館公演よりはリラックスしている気がした。声が出ないのは、声の調子うんぬんもあるが、前のめりな歌唱と力みによる声帯の狭窄ではないか。けれども、それはライブならではのこと。みんな高音のことをよく話題にしているが、そもそもアルバムと同じくらい澄んだ高音がライブで出ていたことがあるのだろうか?なにか、いつも「ないものねだり」をしているのは不毛である。
 演奏の正確さでも、歌を録音盤どおりに歌えることでもなく、その日その時に伝わってくる思いやパワーがあったかどうかだろう。正直、声とかミスタッチとか、かなり脇道のドブ溝のような話題の気がする。歌詞忘れはちょっと問題ですが。<歌係>ですから。
 東京公演2日目は女性客多めで、一見さん少なめのライブだった印象でした。

No.曲名回数
1こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい3回目
2悲しみの果て23回目
3新しい季節へキミと5回目
4今はここが真ん中さ!6回目
5 おかみさん初!!
6 BLUE DAYS初!!
7まぬけなJohnny4回目
8さよならパーティー8回目
92回目
10 ネヴァーエンディングストーリー初!!
11桜の花、舞い上がる道を7回目
12 あの風のように初!!
13ハナウタ~遠い昔からの物語~2回目
14 ジョニーの彷徨初!!
15ガストロンジャー19回目
16to you2回目
17笑顔の未来へ11回目
18 Sky is blue初!!
19太陽の季節2回目
20今宵の月のように18回目
21FLYER6回目
22俺たちの明日13回目
23ファイティングマン11回目


持帰り用体験回数(コピーしてご利用下さい)


持帰り用セットリスト(コピーしてご利用下さい)

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