小雨模様の午後3時過ぎから、軽く1時間くらいのリハーサルが始る。曲目は、【石橋】【いつものとおり】【彷徨】【Sky is blue】【夕べの空】【遁生】【俺の道】【翳りゆく部屋】【女神】【珍奇】【生命賛歌】【きみの面影だけ】【覚醒】【季節はずれ】【so many】15曲くらいだったろうか。基本的にさわりだけ、どの曲も宮本が一節以上を本気モードで歌い上げた。
開場前、物販の列から交替した入場列が並ぶ間も、リハーサルの余韻が残る。開場直前から強まった雨も災いして、入場者が会場に収りきるまで30分以上を要して、その結果、開演時間も数十分遅れた気がする。場内の物販列が入場者の動線と絡みついた、整理の悪さもあるのだろう。
野音にふさわしく、特に入場の合図があるわけでもなく、静かに6人で現れて【夢のちまた】から滑り出す。秋の野音、雨模様にもかかわらず、宮本の声は伸びている。スピーカーから出る音声は、雨粒にたたき落とされるようで、いつもの伸びゆく空気感はなかった。
【夢のちまた】から【おかみさん】までの6人編成が、24日の序盤を構成していた。【俺の道】【石橋たたいて八十年】【おかみさん】などの力強い曲に、今の宮本浩次の境地を感じる。とくにアルバム『俺の道』の楽曲は、6年経ってはいるが、当時のツアーのヒリヒリ感が甦ってくるくらい、ささくれた印象が再現されていた。【石橋】については、歌詞にあるとおり「のびのび」楽しそうなおどけぶり。【おかみさん】は、ライブ演奏では歌詞のなかにある滑稽さがぶっ飛ぶくらい、野太い定番曲に変容している。その一方バラードとしては【暮れゆく夕べの空】が光った。25日と比較しても、24日の方がよかったと記憶する。【女神になって】は、今の心地と違うのか、心にひびく強さは感じなかった。
【おかみさん】の演奏前MCで「マニアックな曲も用意してきたぜ」といった宮本の言葉どうり、『生活』から【遁生】がチョイスされる。アルバム『生活』の当時はギターは座ってしか弾けなかったらしく、今回の野音ではそれを再現しようとしていたが、今となっては逆に弾きにくいようで、立って演奏していた。団地の部屋で火鉢を使う様子を語るのは、いつものことで目新しさはなかったが、「両親がだいぶ心配していたと思います」という親の視線に身を寄せるのが、中年の自覚だろうか。本編後半の【地元の朝】とあいまって、そうした侘びしさが響いた。
24日のバラードのベストは【何も無き一夜】である。4人編成でしかも、宮本ギターのミスタッチなく、歌詞も原曲通りにしみじみと歌いきった。その情感はすばらしく、演奏後もしばらく拍手までの余韻があるほどだった。つづいて【いつものとおり】であるが、この曲は宮本ギターのミスタッチが少し足を引っ張った。歌が素晴らしかっただけに残念だった。
【珍奇男】はいつもどおり。ただ、この日はトミと宮本のあいだにズレがあるようで、数曲で出だしをミスしたり、あるいは盛り上がりでつまずいたりした。【珍奇男】もどことなくその気配があった。サポートの蔦谷・昼海両人がステージに帰ってきたのは、この途中だったか、次の【生命賛歌】。【生命賛歌】は<あらくれ>モード全開なだけに、相応しい力強さだった。多少の演奏の荒削りは、歌のよい背景になってしまうくらい、ざっくりとした大振りの刀である。歌の題材になったという、吉見百穴の幻影を見る心地もした。そこから【武蔵野】であるから、考えられた曲順である。いつもなら情感に涙する宮本であるが、この日はライブの進行状況や雨脚などを気にしているようで、冷静に歌っていたように思う。
それにしても、今年の野音のセットの中では『俺の道』の楽曲の存在感が強い。【季節はずれの男】は両日共に素晴らしい存在感だったが、中でも24日の雨のなかでの歌唱は絶品だった。歌詞と一致した気色が情感をいや増しにしていた。
【きみの面影だけ】は、自選集発表のタイミングで披露だ。今後も歌われるかは微妙な情勢だから、今年の野音で耳にできた人は幸運である。ちょうど『俺の道』の隠しトラック【心の生贄】と同じポジションになりそうだ。メロディは【赤い薔薇】、歌詞は【翳りゆく部屋】に似ていると感じた。それがお蔵入りの理由かもしれない。
【ジョニーの彷徨】から【OH YEAH!(ココロに花を)】までがまたひとつの区切りであったように思う。雨模様に影響されたのか、24日は沈鬱な曲感のある楽曲は、よりいっそうしんみりとした感覚が増して、いつも以上に観客席が静かだった。本編後半やアンコール時には、そこそこの歓声があったものの、それ以外は雨音の奥の歌声や演奏に耳を澄ましている、といった気色だった。【地元の朝】ではストラップの短いギターに四苦八苦して、出だしでつまずいて、うまく世界観に入れるか心配したが、さすがプロフェッショナル後半はきちんとまとめてきた。そして、すばらしい【シグナル】。町見下ろす丘の蒼い月。
本編後半の【ハナウタ】~【ファイティングマン】。この流れは武道館公演同様、現・6人編成のエレカシでは最強のコンボだといえる。その意味では夏フェスやイベントでよく見かける畳みかけ。当然、野音で盛り上がらないわけはない。しかも、【ファイティングマン】を出されては、豪雨とて踊らないわけにいかない。
本編終了後さっと舞台袖に下がって、申し訳程度の間(ま)のあとに、早足でステージに戻ってくる。観客席の凍え方を心配してのことだと思われる。そして、いきなり【so many people】で観客席に火を入れる。火を入れたあとの【やさしさ】には参った。実際、トミのドラムもシフトチェンジしきれず、出だしがボロボロだった。やっぱり無理のある曲順だと思った人も多いだろう。リベンジは翌日果たされた。【今宵】【笑顔】は定番ながら安定した出来。本編のMCで、「雨合羽を着ている人がいるということは、雨が降って居るんですか?」とわざとトボけたように、24日のセットでは雨を意識しないステージを心がけていたようだ。荒天だって何も変えない、そんな覚悟を見せられたように思う。しかし雨払いの意味もありそうな【Sky is blue】では、いつもよりいっそうに「スカイブルー」に力が籠もっていた。
アンコール・ラストは近年の大ヒット曲【俺たちの明日】。25日の【友達がいるのさ】の曲前MCで言ったセリフ「俗受けするよい曲」とは、実はこちらではないかと思う。この曲はどうもメッセージがストレートすぎて気恥ずかしい。しかも同じテーマなら【星の降るような夜に】が好きだから、むしろそちらを歌って欲しかった。
No. | 曲名 | 回数 |
---|---|---|
1 | 夢のちまた | 2回目 |
2 | 俺の道 | 12回目 |
3 | 女神になって | 2回目 |
4 | 石橋たたいて八十年 | 初!! |
5 | 暮れゆく夕べの空 | 初!! |
6 | 悲しみの果て | 26回目 |
7 | おかみさん | 3回目 |
8 | 遁生 | 3回目 |
9 | 何も無き一夜 | 2回目 |
10 | いつものとおり | 初!! |
11 | 珍奇男 | 13回目 |
12 | 生命賛歌 | 17回目 |
13 | 武蔵野 | 11回目 |
14 | 季節はずれの男 | 5回目 |
15 | きみの面影だけ | 初!! |
16 | ジョニーの彷徨 | 4回目 |
17 | 地元の朝 | 4回目 |
18 | シグナル | 11回目 |
19 | OH YEAH!(ココロに花を) | 2回目 |
20 | ハナウタ~遠い昔からの物語~ | 5回目 |
21 | FLYER | 8回目 |
22 | ガストロンジャー | 21回目 |
23 | ファイティングマン | 14回目 |
24 | so many people | 7回目 |
25 | やさしさ | 6回目 |
26 | 今宵の月のように | 20回目 |
27 | 笑顔の未来へ | 12回目 |
28 | Sky is blue | 3回目 |
29 | 俺たちの明日 | 15回目 |
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