『敗北と死に至る道が生活』その360
2000年10月28日の日記が出てきた。あれから今日まで全然進歩がないことがうかがえる。今日は何故か野菜が食べたくなり、スーパーに買い物に行った。
しめじとピーマンを買ってきた。
ソーセージと一緒に炒めた。
うちのコンロは電気なので野菜炒めが全くうまく作れない。
熱く熱した中華鍋で一気に炒めないとおいしくない。
火力が弱いと時間をかけざるを得ないので水分が出る。
まぁ仕方がない。
ところでピーマンというのは中身がない。
ピーマンと言う植物に関して何も知らない。
男はそれを制覇するときに仕組みを知らないと気持ち悪いという性格を持っている。
車に乗る男はエンジンの仕組みを知りたがる。
何故爆発した衝撃が回転運動になるのか。
こういうことを知らないと車に乗ってはいけないような気がするのだ。
だからどうしてもエンジンの仕組みを知りたがる。
4サイクルの仕組みを一通り理解して、「なるほど」と思うのだ。
実際は「レシプロエンジン」よりも「ロータリーエンジン」の方が効率的なんだ!!
とかどうでもいいことを知る。
女性にこういう話をすると、
「それで生活・・・楽になんの?」
とそっけない。
女性は現実的で男はロマンチストだ。
だが女性は空想的で男は理論派だったりする。
だからピーマンを炒めるにもピーマンの仕組みを知らないとダメだ。
ピーマンの空洞だ。
ことによるとこれ・・・。
電子レンジに入れたら爆発するのではないか?
ピーマンが入ったスーパーの袋が揺れんばかりに自転車をこいだ。
早速家に帰って試そうと思ったのだ。
だが・・・
ひと思いに強く握ったら「ポン」とヘタの部分が飛ぶんじゃないか?
そう思ったら居ても立ってもいられない。
かと言って座っても居られない。
どうしたらいいんだろう。
近所の公園に立ち寄ることにした。
さっそく試そうと思ったのだ。
いざ実験を開始しようとすると女の子二人がネコにエサをあげている。
だめだ。
人がいたらだめだ。
何故ならピーマンを強く握ったら「ポン」と音がするだろう。
人類がかつて聞いたことのない異様な音だったら通報されてしまう。
女の子二人もネコに飽き帰っていった。
今がチャンスだ。
ピーマンを思いっきり握ってみた。
「カスッ」
今世紀最後の実験に「カスッ」ってこたぁないじゃないか。
予想と違い、握った指の部分から裂けてしまった。
実験失敗だ。
だが選んだピーマンがたまたまダメだったのかもしれない。
もうひとつやってみた。
一回目と同じだ。
更にもうひとつやってみた。
一回目と同じだ。
胴体の部分は皮が薄いからそこから破れてしまう。
ヘタの部分は意外に強い構造になっていることが分かった。
こうして6個パックのうち3個のピーマンを割った。
虚しくも枯れ葉が落ちる代々木小公園。
北風さえ吹きはしない昼下がり。
一体俺は何をやっていたんだろう。
さきほどのネコが不思議そうにこっちを見ている。
どこでも一緒かお前は。
気を取り直そうにも手がピーマン臭いのだ。
こうなると次は電子レンジだ。
卵を電子レンジに入れると爆発することはよく知られている。
ピーマンだって爆発する筈だ。
入れてみた。
1分くらいは変化がなかった。
1分を超えたあたりから「シュー」と、空気が漏れている音がする。
中を見るとピーマンはパンパンにふくれあがっている。
だが爆発はしない。
空気がどこからか漏れている。
どこなんだろう。
水を張ったボールに入れてみた。
パンクしたチューブの穴を発見するあの要領だ。
ヘタの辺りから空気がもれる。
やっぱりヘタの辺りはシーリング技術がさほどでもない様子だ。
へへ。恐れ入ったか。
電子レンジから取り出すとだんだんしぼんでくる。
再び入れてみた。
またパンパンになった。
水蒸気が出ている様子で中が曇ってきた。
様子が見えない。
中はどうなっているんだ。
電子レンジ自体から異音がしはじめた。
空焚きになってしまうからダメなんだろう。
あわてて止めて取り出してみた。
焦げ目が付いてパリパリになってしまった。
水分が無くなり、皮が薄くなって紙風船のようだ。
こうして何の成果もなかった。
むしろピーマンを無駄にした。
悔しいから辞書で調べた。
ピーマン
トウガラシの一種。
緑色で大きな鈴形のでこぼこのある実は、食用。
辛みは少ない。西洋とうがらし。(ナス科)
ナス科とはなんだ。
ピーマンがナス科とはなんだ。
トマトも調べた。
トマト
世界各地に広く栽培される一年草。
実は球形で、熟すと赤くなり、水分が非常に多い。
生で食べるほか、ケチャップにもする。(ナス科)
ナス科とはなんだ。
トマトがナス科とは何なんだ。
おそるおそる「ナス」を調べた。
ナス
畑に作る一年草。薄紫色の花が咲く。
濃い紺色の実はキュウリと共に夏野菜の代表。(ナス科)
ナスはナス科だ。あたりまえである。
こうして研究の成果が報告出来ることを誇りに思う。
結論
何科だか分からない野菜は取り敢えず「ナス科」と言い張れ。