エレファントカシマシDB 管理人の日記 2010/01/27(水)

一番下へ

『敗北と死に至る道が生活』その2220
 100年刻みの「年」を数十枚と「移動」というシールをテプラで作って電子レンジに貼ってみた。「年」を貼った"何分温めるか"というダイヤルを"1600年"に設定。冷蔵庫を開けて一番最初に目に入った厚揚げを入れて”移動”を貼ったスタートボタンを押してみた。厚揚げが温かくなって、「くだらねぇ」とつぶやく予定だった。

 チーンと音がして開けてみるとそこには温かいはずの厚揚げが無く、くだらねぇとつぶやく予定もなくなっていた。もしかして。。。。

 そう。もしかした。かもしれない。が、確かめようが無い。1600年に行ったんだろうか。厚揚げは1600年に行ったんだろうか。1600年に厚揚げが突然現れたという伝説は聞いたことがない。だが、1600年に厚揚げが突然現れなかったという話も聞いたことが無い。私は無性に確かめたくなった。どうすればいいだろう。こんなときは田中に聞くのが早い。クラスの中でもトップクラスだ。科学的な話の。

 私は滅多に使わない携帯電話を手にし、田中に電話した。「あのさ、タイムマシンで移動したことはどうすりゃ分かる?」前置きが嫌いな私は唐突に切り込んだ。返事は意外といえば言えなくもないし、しごくまっとうだと言えば言えなくもない「見りゃわかんだろ」だった。混乱したのは私のほうだ。「見りゃって何をだよ。厚揚げか?」「厚揚げ?お前タイムマシンの話をしてるんじゃないのか。タイムマシンだったら周りを見回せばどの時代かなんとなく分かりそうなものじゃないか」。

 私が作ったタイムマシンが電子レンジを利用したものだという説明も無く、厚揚げだけが移動したという説明も無く聞いた私が悪かったのだ。普段から主語が無いとよく言われる。「ごめん。そうだな」と電話を切った。日本は島国だから主語が無いんじゃないかと思ったが、今はそんなことはどうだっていい。

 その次に私がやったことと言えば当然、洗面所にある乾燥機だ。自分で行ってみるしかない。頑張れば入れる。タイマーに「年」を貼り、スタートボタンに「移動」を貼り付けた。誰が押すのだ。まぁいい。押してすぐに蓋を閉めればなんとかなるだろう。あわてるでない。行きたい年を慎重に選ばなければならない。1600年に設定したとしても、歴史が苦手な私としては、それが1600年なのか1700年なのか区別がつかないだろう。通行人に「今何年ですか?」と聞いても西暦の制度がない時代だ。漢字二文字の年を言われてもそれが江戸時代なのか安土桃山時代なのか区別がつかない。

 2100年だったらはっきり未来だと分かるんじゃないか?ダイヤルを合わせてふと考えた「どこに移動するのか」。日本とは限らないではないか。時間と空間を指定して移動しなければならない。2100年のデンマークだったらどうしよう。今のデンマークだってよく知らないのだから比較のしようがない。

 そう言えばあの厚揚げは1600年のどこに行ったのだろう。太平洋の海のド真ん中だったら「ぽちゃん」で終わりだ。「タイムマシンで厚揚げが移動した」という歴史的な事態を数匹の魚しか知らないではないか。数匹の魚が厚揚げを「うまい」とも言わずに黙々と歴史ごと食べて終わりだ。

 私は勝手に仮定した。移動元と同じ場所に移動したのではないかと。ただこれも証明できない。地球は自転しているのだし、公転まで考慮したらタイムマシンで移動した瞬間に宇宙空間に放り出されないとも限らないこともない。ないが多くてよく分からない。

 宇宙空間に厚揚げが突然現れたという話は聞いたことがない。だが、宇宙空間に厚揚げが突然現れなかったという話も聞いたことが無い。私は無性に確かめたくなった。どうすればいいだろう。こんなときは NASA に聞くのが早い。世界の中でもトップクラスだ。薄~い銀紙みてぇな毛布が温かいと言われているいかがわしい通販のヤツにも 「NASA が開発した」と書いてあれば威厳が増す。多少のぬくもりも、さすが NASA だとプラシーボ効果で倍増だ。だが今はそんなことはどうだっていい。とにかく NASA に電話するのだ。

「あ、もしもしNASAですか」
「Hello? Hello?」
「宇宙空間に厚揚げありましたか」
「Pardon?」
「厚揚 in Space?」
「What's?」
「A.t.s.u.a.g.e in Space?」
「ppp....」
「切られたちくしょう」

そうこうしているうちに、母が乾燥機に洗濯物を入れた。ま。まずい。スタートボタンを押した。


2100年。赤羽団地に洗濯物が飛んだ。

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