『敗北と死に至る道が生活』その283
「夏」 / アルベール・カミュ真夜中に、1人岸に立つ。いま少し待ち、そして私は出発するだろう。空自身もまた、すべての星とともに停止している。ちょうどこの同じ時刻、世界のいたるところで港の暗い水を照らしているあの灯火に覆われた商船と同じように。空間と沈黙とはただひとつの重みとなって心にのしかかる。突然の愛、偉大な一作品、決定的な行為、変貌する思想もまた、ある瞬間、逆らいがたい魅力と重なった同じ耐え難い不安を与える。存在することの甘美な苦悩、名を知らぬ危険のえもいわれぬ接近、生きるとは、してみればその破滅に向かって走ることか?改めて、休むことなく、われわれの破滅に向かって走ろう。
(滝田文彦訳)