『敗北と死に至る道が生活』その388
小学生の頃近所で火事があった。その家が火事だったのは火を見るより明らかだった。何故なら火が見えたからだ。野次馬というのだろうか、近所中の人が見物に繰り出した。夜9時くらいだったと思う。バケツの水をかけようと頑張ってみている。バケツなんかじゃ消せないことは火を見るより明らかだった。何故なら火が凄かったからだ。住人は逃げ出せたらしくあたふたしていた。
俺は靴下を履いて出てきたことを少し後悔していた。こういうときは裸足で駆けつけなければだめだと思った。なにを暢気(のんき)に靴下履いてしまったんだろう。大人はステテコやサンダルだった。それでも単なる野次馬なんだ。
隣の山田さんのおじいさんは寝たきりだった。寝たきりだった筈の山田さんのおじいさんは火事を見ていた。本当は歩けたんだ。「火事場の馬鹿力を使って野次馬になる」そんなことに馬鹿力を使ってどうするんだ。じじぃ。1馬力は1馬鹿力程度か。
駆けつけた消防士は重装備だった。消防士が取る物もとりあえず裸足で来たら、それこそ迷惑だ。